自動運転に関わる書籍のご紹介をしていきます。
次の点についてお伝えします。
・この本の気になった点を3つご紹介
私自身、ビジネス書、技術系書籍などを年間少なくとも100冊くらいは毎年読んでおります。
そのため、本棚には2000冊以上あります。
この本は、ニューヨーク市運輸局の局長を務めた人が書いたもので、実際、どのような交通施策をとると、どういった変化があり、どのような反対が起きるのかなどについても書かれています。
そのため、ただ、考えたというものではなく実際の交通計画などに関わることもされているので話が具体的です。
ただ自動運転に反対という本ではなく、自動運転の時代は来るけども、そこで人が排除されたり自動運転技術が進んだ高級車だけが優先されるような街にしてはいけない、ということを言われています。
この記事は1、2分で読めますので、もしよろしければ目を通していただければと思います。
目次を最後に載せております。
書評「ドライバーレスの衝撃 自動運転車が社会を支配する サミュエル・I・シュウォルツ」【人を排除してはならない】
著者 サミュエル・I・シュウォルツ
出版 白揚社
翻訳 小林啓倫
2019年12月21日 第1版第1刷発行
人々が密集していることで、安全であると感じる
朝になると子供たちが歩いて学校に向かい、それから少しして店主たちが自分の店を開け、歩道を掃除してお客を迎える準備をし、主婦たちが歩道で噂話に花を咲かせ、労働者たちが仕事の後の一杯を求めバーに立ち寄るのだった。そこには明らかなことがひとつあった――隣近所でこうした活動が行われ、人々が密集していることで、周囲に常に誰かがいるという状態が生まれ、その結果として住民はより安全であると感じるようになっていたのである。
今日、都市計画において、私たちはそれと同じことに腐心している。そして私は、自動運転車が道路を支配するようになり、サイクリストや歩行者が消えてしまうと、同じ問題が起きるのではないかと懸念している。もし自動車に支配される社会から、歩行者が自分たちの居場所を取り戻すことを望むのなら、歩行者は団結し戦略的に事に当たらなければならない。
出典 ドライバーレスの衝撃 P.57
古い町を一掃し、新しいビル街にしてしまい、人を排除してしまうと安全な街でなくなってしまいます。
これは、自動運転車においても同じことがいえるのではないかということを筆者は警告しています。
つまり、自動運転車専用道路のような形を作り、人や自転車を排除してしまうと、かえって危険な街になるということです。
これは、都心を見ればわかります。
仕方がないところはあるかもしれませんが、丸の内のビル街はきれいです。
しかし、夜になれば人っ子ひとりいなくなり、いつ犯罪が起きてもおかしくない街になっています。
ビル街になる前はきっと、夜でもぎやかな街があったはずです。
ところが、効率優先のオフィス街にすることで人が排除されました。
同じことが自動運転車が走ることで起きたらそれこそ、危険な街になってしまいます。
個人所有の自動車に一人ではなく二人乗せることができれば、ニューヨーク市の渋滞を一夜にしてなくせる
オートボット(一人乗り自動運転車)とタクシーボット(複数人乗り自動運転車)は、カーシェアリングシステムの下で運用され、一度につき1人の乗客をピックアップしたり、降ろしたりするように設定されていた。そして車両を一括管理する「配車係」が、それぞれの移動ごとにオートボットとタクシーボットのどちらが効率的かを判断した。その結果、現実世界のリスボンで人間が運転している車両た担う移動需要を、自動運転車なら90パーセント少ない車両で満たせるという結論に至った。またこの研究によると、リスボン市内の路外駐車場の80パーセントを削減し、街路の面積も20パーセント狭くできる可能性がある。そうなれば、これまで舗装されていたスペースの大部分を解放できるし、歩行者向けのレクリエーションエリアや住宅、仕事場など、他の目的にも利用できるかもしれない。
重要なのは、この実験結果が個人の所有する車両ではなく、シェアによる車移動が最も効率化されるよう配車される自動運転車を想定して得られたものであるという点だ。~中略~
私は長い間、もしすべての個人所有の自動車に1人ではなく2人乗せることができれば、ニューヨーク市の渋滞を一夜にして解消できるだろうと主張してきた。
出典 ドライバーレスの衝撃 P.116
この指摘は非常に重要です。
自動運転車を導入した場合のメリットが述べられるとき、そもそもの前提で「シェア」されていることが多いです。
そのため、自動運転だから効率的に運用できるという面はあるものの、そもそも、「シェア」すればかなりの効率化をはかることができるということです。
国によっては、二人以上乗せていないと走ってはいけないレーンなどがあります。アメリカのカープールレーンなどです。2人以上でなくても、エコカーや2輪車など許可されるようです。
当然ですが、一人で乗っているところを二人にすればそれで車の量を半分にできます。
なんの工事もしないで倍の交通量にすることができます。
通勤時など殆どが一人乗車と思われます。
これを複数の人が乗ってシェアリングサービスで行うと、自動運転でなくても交通量は大幅に減らすことができます。
通勤時のラッシュはどの国でも起きていますが、自動運転や道幅を広くしたりする以前に、相乗りできるシェアリングサービスができれば渋滞の多くは解消できることになります。
もちろん、同じ方向に乗る人をマッチングするサービスアプリなどは必要になりますが、道路を広げるよりはよほど簡単に開発できます。
UberTaxiなどは、そのあたりを見込んでサービスを作っている部分もあるのではないかと思います。
ただ、不特定の人が同じ車に乗るというのは、セキュリティ面でも心配はありますので、サービス提供業者が提供する監視カメラを付けないとサービスできない、監視カメラに異常があるときには乗り合いできないなどのルールの整備は必要でしょう。
自動車事故による死者よりも、運動不足による死者の方が4倍も多い
全世界の主な死因として、運動不足は喫煙を追い越したところだ。毎年500万人以上の人々が、心血管疾患や脳卒中、癌、糖尿病などの運動不足によって引き起こされる疾患で死亡している。言い換えれば、自動車事故による死者よりも、運動不足による死者の方が4倍も多いのだ(全世界で年間約125万人が交通事故で死亡している)。さまざまな研究によって、運動不足は自動車による移動距離と関連があることが明らかになっている。したがって、多くの専門家が指摘しているように、自動運転車によって車移動が大幅に増加した場合、防げたはずの疾患によって大勢の人々が亡くなる可能性がある。
出典 ドライバーレスの衝撃 P.249
自動運転が発展することにより、人々の運動量が減ってしまうのは問題でしょう。
ただ、アップルウォッチをはじめとして、多くの電子デバイスは運動を促したりしています。
どれだけ自動運転が進んでも、気にする人は気にしますが、気にしない人たちも多くいますので、この運動不足による死亡者が増えてしまうということは十分ありえます。
また、自動運転車であっても現状のような形であれば、EVになったところでタイヤのパンクも起こりえますし、故障もするでしょう。
そうしたときに、自動車に対する知識を殆ど持たない人たちが増えます。
故障率は下がったとしても、ちょっとしたことで車に関するトラブルでサービスを呼んでしまう人も増えるのかもしれません。
逆に車側がかしこくなるので、故障する前に車側が近くの修理工場に連絡を入れたりすることで、ドライバーは本当に何もしなくても済むので、車のレッカーサービスなどは殆ど不要になるのかもしれません。
どちらにしても、自動運転車が普及することで今までにない変化を見ることができるでしょう。
嘘ニュースサイトの虚構新聞でも、これに関する面白い記事がありました。
この記事には、自動運転によってドライバーが運動不足になっているから、自動運転車がドライバーを家の手前10kmになると置き去りにして勝手に帰ってしまうという内容でした。
自動運転車がここまでかしこくなるのならば、それはそれでいいかもしれません。
自動運転車はいろいろと現時点では問題を抱えているものの、交通事故をはじめとした多くのヒューマンエラー(人によるミス)は回避される可能性は高いです。
渋滞についても、多くの部分で解消されることが予想されます。(交通量の最適化処理、例えば交通量に応じた信号の調整や、交通量に応じた案内など)
この作者も自動運転やEVといった新しい技術自体は歓迎しており、ただ、気を付けなければならないことはありますよ、ということを伝えています。
自動運転の技術は高価な車にしかつかなければ、高所得者だけが優遇されるのか、といったような問題提起もあります。
とても具体的でわかりやすい本で、非常に多くの資料を含んだ情報の多い本になりますので、もしよろしければ目を通していただければと思います。
目次
イントロダクション この車はバックできません
第1章 昨日、今日、明日――未来は今
- 自動運転車の簡単な歴史
- 歴史から学べること
第2章 インフラストラクチャー――少ない方が豊かになる
- 自動運転車のためのインフラ――安いほうがいい
- インフラと開発途上国
- 駐車の抑制
- 自動車の個人所有がインフラに与える影響
第3章 交通と土地利用の未来
- 人口がもたらす宿命――交通の未来は自動車の個人所有率がにぎる
- ベビーブーマー
- ミレニアル世代
- ジェネレーションZ
- 安くなれば買うだろう
- まだまだ先は長い
- 賢い対応が求められる
第4章 ビジネスと消費者主義
- 勝者と敗者
- 公共輸送と私的輸送
- トラックと配送
- イージー・ライダーになるのも難しい
- 保険
- ホスピタリティ産業
- メディアとエンターティメント
- 自動車の修理と製造
- 法律
- テクノロジー
- 中国
- 石油需要はピークに達した?
- 自治体の収入源を補填できるか
- 仕事の正当性と公平性
- 救われる命
第5章 命を救う――健康と安全にとって自動運転車はプラスか?
- AIと自動運転車――大量破壊兵器になり得る?
- 自動車から距離を置く
- 環境衛生
第6章 メーカー、ドライバー、乗客、歩行者――倫理に関する難問
- トロッコ問題
- 自動運転車は倫理的に考えて必要と言えるか
- AIとスマートカーの倫理
- 誰が責任を持つべきか
- 倫理、自動運転車、環境
- 車両デザイナーとメーカーと倫理基準
- 倫理と特権
- 倫理、社会正義、不平等
第7章 未来へ
- 個人所有の抑制+公共交通へのシフト=モビリティの新しい姿
- コミュニティの設計を修正する
- 駐車場を減らす
- 自動車ではなく「移動」を売る
- 優れた交通機関を補助して維持する
- 混雑課金を通じで移動性を確保する
- 駐車スペースをもっと良い用途に転用して
- より軽く、小さく、省エネで、環境にやさしい車両を優遇する
- 人々の健康を守る
付録 自動運転のレベル