事故例

高速道路上の速度超過車による追突事故の回避の検討【事故例2】

実際に起きた交通事故をもとに状況等は仮説をたてながら、事故の原因を考えます。
そして、自動運転やADASが普及することでどのような形で回避することができるのかどうかを検討します。

事故例

片側3車線の見通しの良い直線の高速道路において、時速180キロで走行する車両Aが時速90キロで走行する車両Bに追突。車両Bの後部座席にて死亡者がありました。

状況

天候は晴れており、8月の午前8時、交通量は少なめ。片側3車線の直線が続く高速道路。

車両Aからは、車両Bは大型車2台の影に入っており見えない。車両Aは大型車2台の間を縫って追い抜こうとしたが、第2レーンには車両Bがおり、ほぼノンブレーキで追突した。

車両Aは制限速度時速80kmの道路を時速180kmで走行していた。
車両Bとその他の大型車両は時速90kmで走行していた。

事故原因

車両Aによる大幅な速度超過と無理な追い越しのため、2台の大型車によって死角に入っていた車両Bが認識されていなかったことが原因です。車両Aが他の周辺の車両の速度との相対速度が時速100kmほどあり、死角から現れた車両Bに対して回避行動をとることができませんでした。

車両Aの視点

前方に見える2台の大型車。第一レーンにいたが、大型車が第一レーンにも、第二レーンも見えています。近づいた時に第二レーンの大型車が追い越し車線に移動したため、その間を抜けようとしたところ、左ハンドルのために車両Bの存在は第二レーンに入るまで認識できませんでした。第二レーンに入った時には20m前方に車両Bの存在を認識します。しかし、第三レーン(追い越しレーン)までいくはずが間に合わず追突しました。

車両Bの視点

自車との相対速度時速100kmで近づいてくる車両Aに対して対応する方法はありませんでした。

事故の問題点~左ハンドルは大型車両があると右が見ずらい

車両Aの速度超過が最大の問題点ですが、大型車2台に挟まれ、車両Bの存在が追突直前まで車両Aに認識されなかったことも要因です。また、車両Aが左ハンドルであることから、左レーンからは、前方に大型車がいると右レーンの車を認識しずらいことも問題の一つです。
速度超過ではありますが、右ハンドルの方が一瞬早く認識できていた可能性はあります。

右ハンドルだとしても、前方に大型車がいる場合、逆に左レーンの車を認識しずらくなることは変わりません。

今回の状況においては、左ハンドルであることも災いした可能性はあります。
右ハンドルだとすれば右レーンから左レーンに抜けて追い抜こうとすれば事故がおこりやすくなります。
日本は左側通行ですので左から追い抜くというシーンはあまりないと思われます。

現状での回避方法

車両Aについて

大型車が複数見えた時点で速度を他の車と同じ90キロ程度にまで落とすべきでした。速度超過に加え、車と車の間を縫って走る行為にも問題がありました。無謀な運転での事故は悲惨な事故になりやすい例です。

車両Bについて

無謀な車が背後から来たら避けるようにする、というようなことはそもそもできるものではありません。
人間が運転をする限り回避方法はありません。

自動運転(ADAS等)ができることの考察

今回のような無謀な運転について、車両A側、車両B側それぞれにどういったシステムがあれば事故を回避できるのかについて検討してみます。

車両A側の速度制御と緊急ブレーキについて

速度について

一部の車に搭載されていますが、ある特定のエリア以外では速度が制限される装置の義務化と言う考えがあります。もともと国産車では時速180km近くでリミッターがかかる車が多いです。ベンツ、BMW、アウディの場合は基本的には時速250kmでのリミッターがかかるようになっていると言われています。

リミッターがない車もあり、時速300km出るような車もあります。このあたりは考え方による部分が大きいです。
しかし、制限速度時速30kmの道で時速50km出せば大事故になる可能性があります。

つまり、速度の上限を設定するかどうかではなく、ドライバーに判断と責任がゆだねられているということです。
自動運転になって、時速150キロ出すようになるということは十分あり得ます。
それは、前後の安全が確保されているのであれば、その速度でも問題ないからです。
もっとも、空気抵抗や摩擦抵抗との関係で一番エネルギーを消費しない最適な速度が求められ、その速度で走行するようになるでしょう。

緊急ブレーキについて

予想される進路とその先の車両Bを道路側のカメラ、LiDAR等で認識していることができれば、緊急ブレーキによって回避する方法があります。また、ドライバーから見て死角に入っていると思われる車両Bの存在をメッセージ等で警告をするという方法もあります。
もし、2台の大型車の間に車両Bの存在があることがわかっていれば、間から抜けようとはしなかったはずです。

車両B側の回避行動について

異常な速度で走行する車両Aの存在を車両Bのシステムが気づいた場合、車両Aの追突を避け、車両Bが第一レーンに回避するというようなことがシステムとしては実現できます。

自動事故回避システムというものになります。自車が事故を起こさないだけでなく、もらい事故を回避するシステムになります。

ドライバーは通常、前方方向を中心に見ており、背後からの追突については想定しませんし、意識も向けません。ところが今回のような異常な車両があった場合に、緊急で事故を回避するというシステムも考えられます。

事故を回避するための考えられるシステム

自動事故回避システム

現在、進められている自動運転システムは自車が事故を起こさないようにするためのシステムであり、無謀運転をする異常車両から事故を回避するシステムはありません。もちろん、車車間通信が進むことで、車同士がお互いに対話をして事故を回避する方向に動くということはあります。

自車がいくら事故を起こさないシステムを搭載していても、無謀な運転をする車がいたときには対処ができないのが現状です。
自動運転の車が普及していく中でも、自動運転やADASのシステムをつけていない車も存在し続けます。そうしたときにどのように避けるのかというときに必要になります。

今回の事故であれば、車両Aが車両Bに追突するまでの時刻がわかります。相対速度もわかっていますので、回避するためには第二レーンをキープしながら速度を上げます。その後、第一レーンを走行する大型車の前に入り、車両Aをやりすごすことで事故の回避はできます。
相対速度が時速100km近くですので、1秒前で追突30m手前になります。30mというと車間も考えると大型車両2台分くらいですので、車両Aが見える前に回避が必要になります。車両Bからも見ることはできません。

その点からすると、大型車両が後方からくる車両Aを検知してその情報を周辺の車両に異常走行をする車両を伝える形が一番スムーズです。

検出するためにはLiDARなどで常に後方も3次元ですべて把握することは理想ですが、現時点では、それらの装置は高価であり、前方に多くセンサー類をつけています。後方にまで同じような装置をつけるには、もう少し時代が進み、例えば低価格化の進んだLiDAR一つで対処できるような形になる必要があります。現時点のように複数のセンターでなんとか対処するという形では価格が高くなりすぎます。
車車間通信との併用など、複数センサーだけに頼らない形か、道路側でカメラ監視して異常走行をする車両の情報を伝えるなどの方法が考えられます。

まとめ

今回の事故のように、車両Bに全く非がない場合において、どのようにして事故を回避すれば良いのかということについて検討してみました。
現在進んでいる、ADASなども、自車が事故を起こさないようにすることと、運転を楽にするというものです。

自動運転が車と車の間を縫って走行するようなリスクを増やすような機能は搭載されません。
しかし、パトカーや救急車などの緊急車両にそうった緊急走行用モジュールは開発されるかもしれません。それは安全性よりも時間を短縮することに価値がある場合があるからです。安全性を減らすというよりも、安全性のマージンを減らすという形です。

今回提案したような自動事故回避システムが普及することで、無謀運転をする車が逆に増えるのではないか、という部分もあります。無謀な運転をしても周りの車が避けてくれるならそれでいい、というものですね。

そういったことを避けるために、おそらく、車両ごとに運転技術が点数化されるようになっていくと思われます。

ソニー損保が行っていますが、運転の加速度の測定によって運転の安全度を測定します。
シガレットのところに簡単な装置を取り付けます。

急ブレーキ、急ハンドル、急アクセル、スマホの走行中の使用の有無によってドライバーを点数化するものです。
それにより、保険料を安くしたりします。

ソニー損保プレスリリースより https://from.sonysonpo.co.jp/company/news/2020/03/002.html

こういったドライバーごとに運転技術を点数化をすることによって安全に走行するようにすることを働きかけるようになっていくのでしょう。

そうすることで、皆が自然に安全運転をするようになり、もしくは、性格的に運転に向かない人は保険なども含めて価格を高くして乗りにくくする、運転がしたいわけではない人は乗らなくても自動運転がサポートしてくれるような形が望まれます。

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