実際に起きた交通事故をもとに状況等は仮説をたてながら、事故の原因を考えます。
そして、自動運転やADASが普及することでどのような形で回避することができるのかどうかを検討します。
事故例
片側2車線の道路の交差点において、右折しようとしていた車両Bを避けようとした速度超過の車両Aが歩道に乗り上げ店舗等に突っ込みました。
この事故の過失割合の判例は車両Aが60%、車両Bが40%でした。
状況
6月の午前3時頃で交通量は少なめでした。天候は夜間ですが曇りで特に視界が悪いということはありません。信号は共に青です。
車両Aは制限速度50kmの道を70kmで走行してました。車両Bは100m先に見える車両Aを見つけましたが間に合うと思い、右折しようと交差点に侵入しました。
しかし、50m先に見える車両Aの速度から危険と感じ、車両Bは交差点内で停止。車両Aは車両Bとの衝突を回避するために急ハンドルを左に切り、車両Bとの衝突はなかったものの、歩道と店舗に突っ込みました。
事故原因
車両Aの速度超過と、車両Bの右折のタイミングの判断ミスと、車両Aの回避処置が原因です。
夜間は特に車の距離を判断することが難しいです。
車両Aは第1レーンにいたことも車両Bから見て十分に距離があると見えた一因です。
車両Aの視点
事故になった交差点の次の交差点で左折の予定のため、第1レーンに移動しました。時速70kmで走行しているところ、交差点に進入してきている車両Bを発見。そのまま直進すると衝突するために急ブレーキと左にハンドルを切ることで衝突を回避しようとしました。
しかし、車両Bとの衝突は回避したものの、そのまま歩道に乗り上げ、店舗に突っ込んでしまいました。
車両Bの視点
100m先に車両Aを発見しました。右折するには十分の距離があると判断して交差点に時速20kmで進入しました。しかし、50m先にいる車両Aと衝突の可能性があると判断し、交差点内(対向車からみて第2レーン内)で停止しました。
事故の問題点〜夜間は相手の車両の距離と速度の判断が難しい&トロッコ問題も含む
昔から言われていることですが、夜間の場合、車との距離の判断が難しくなります。
車両Bは軽自動車でしたが、その場合、2灯のライトの間隔が狭いためにより遠くにいると判断されることがあります。
昼間であれば、軽自動車なのか、普通自動車なのかの判断がつきますが夜間はその判断ができません。
つまり、車両Aから見た時はより遠くに見えたために減速しなかったことが考えられます。
事故の原因自体は、深夜でありお互いの距離と速度の判断が難しかったことになります。
ただ、この事故はトロッコ問題を含んでいます。
トロッコ問題は何度も出てきているので省略しますが、どちらかを犠牲にしなければならないときに、どちらを犠牲にすべきかという問題です。
今回の例で言えば、車両Aは回避行動をとって車両Bと衝突しませんでした。
もし、それで車両Bがそのまま逃走したら車両Aだけが全ての責任を負うことになっていました。また、車両Aの乗員が死亡、または怪我をしている可能性もあります(今回、判例詳細は調べていません)。
現状での回避方法
車両Aについて
夜間は距離がわかりにくいため、対向車に右折車両を認めた時点で特に減速するべきでした。
また、回避行動についてはよほど慣れている人でない限り、左に避けて右に戻すということは難しいことが考えられます。
車両Bについて
人の判断で距離と速度はほとんどできないわけですので、右折しようとしたこと自体が事故の原因でもあります。夜間は普段の間隔よりもさらに余裕をもって曲がるべきでした。
自動運転(ADAS等)ができることの考察
今回のような夜間の右直事故自体はよく起こります。
どのようなシステムがあれば事故回避ができたのかについて考察します。
車両A側の自動ブレーキと自動回避について
自動ブレーキについて
車両Aの速度超過については制限速度に対して10〜20キロ程度と考えられますので、通常走行ではシステムで制御するものでもないと考えます。
交差点近くで車両Bが右折する可能性があるところについては、LiDARにて判断は可能です。
前方車両の有無にもよりますが、右折レーンにいるのかどうかというところまで正確にわかるからです。
その場合は交差点の100m手前の時点で緊急ブレーキほどではないにしても、制限速度の時速50km程度に減速が自動でされるシステムがあることで事故の回避はできます。
自動回避について
今回は2つのパターンが考えられます。
- 車両Bとの衝突と建物への衝突も避けて回避する
- 車両Bか建物への一番被害が少ない方へ衝突する
車両Bの止まっている位置から考えると今回は、車両Aが歩道に乗り上げるまで回避処置をしなくても衝突は回避できたことが予想されます。
そのため自動運転であれば、減速はしたものの、車両Aが通るだけの幅があればそのまま走行する形になりますので、事故は起きませんでした。
今回の事故は車両Aの過剰な回避によって引き起こされた部分もあります。
車両A,B共に自動運転ならば話は簡単で、車両Bが車両Aが通ることができるだけのスペースを用意して停止すれば事故は回避できます。
この事故の示す今後の問題点としては、もし車両Bが対向車の第1レーンにまで入っており、道路上に車両Aがそのまま通る幅を確保できなかったときに車両Aはどこに回避できたのかという問題を示している例です。
車両Bが人の運転で、車両Aが自動運転の時に起こり得ます。
この最適解は、一番被害が小さくなるということをシステムが判断する必要があります。
車両Aが回避する際に、歩道に乗り上げるにしても歩道に誰もいないのか、電柱などの構造物がないのかどうかということになります。
次の3パターンが考えられます。
- 歩道に人がいると思われる場合は、人に当たった方が被害が大きくなることが予想されますので、車両Bにぶつけてでも歩道に回避はできないことになります。
- 歩道に構造物がある場合は、車両Aの死亡率が高くなりますので、やはりここも車両Bにぶつけることになります。
- 歩道に人も、構造物もないのであれば、歩道に回避することが一番事故の被害が小さくなります。
車両Bの右折警告システムについて
右直事故においては、右折する車が事故のきっかけは作っています。
右折する側の車両が正確に対向車の速度と距離がわかっていれば事故は起こりません。
車両B側がRADARを搭載していれば、直進車の相対速度と距離は正確に測ることができます。
右折しようとしたときに、警告音等が出ることで事故の回避はできます。
最近の車には、RADARまではついていますので、技術的に実用化が難しい話ではないです。
ただ、対向車の検出となると、従来のRADARのついている場所からだと死角になって見えにくいなどはありえます。
ステレオカメラでは逆にこの機能を実現することは難しいです。
トヨタのITSコネクトなどでは、交差点側で対向車の検出を行うという形で実現しています。
まとめ
夜間の事故は相手の車両の速度と距離の見誤りから起こりやすい部分もあります。
特に右直事故自体は件数も多いです。
私自身も、二十歳頃に右直事故は2回起こしています。1回は直進車側で、1回は右折側でした。
どちらも夜間です。
自分が右折側の事故を起こした時には、それ以来、指差し確認で右折をするようになったくらい慎重に右折を行うようになりました。
実際、事故を起こした時にも右折側の過失割合が8:2の8の方でした。直進車で事故になったときには、相手の勘違いがあったので、1:9で直進車の私は1でした。
今でも、交差点や、コンビニなどから車道に出ようとする時に夜間は距離や速度がわかりにくく、緊張する部分でもあります。
自動運転までいかなくても、警告メッセージが出るようになるだけでもだいぶ事故は削減されるでしょう。
今回、トロッコ問題もとりあげました。
トロッコ問題は滅多に起きないと思われています。
確かに確実に1人死ぬか、5人死ぬかというような(トロッコ問題)、人が確実に死ぬかどうかというシビアな例はそうそうないかもしれません。
ただ、今回のような右直事故は多く、割と日常的にトロッコ問題は起こり得ます。
その時のアルゴリズムは簡単ではないですが、先に述べたような周りの状況をかんがみた処理が必要になります。