自動運転に関わる書籍のご紹介をしていきます。
次の点についてお伝えします。
・この本の気になった点を3つご紹介
(線形代数の数式が入るような技術系のところは紹介しません。理由は一部の抜粋では済まないからです。初めて読んでもわかる、という部分で抜粋します。)
私自身、ビジネス書、技術系書籍などを年間少なくとも100冊くらいは毎年読んでおります。
そのため、本棚には2000冊以上あります。
この本は名古屋大学を中心とした各分野の専門家が書いた本です。
そのため、いわゆる電子技術等の基礎的なことについて全く知らない人が自動運転について知るには少し難しい本です。
ただ、一般的なメーカーのエンジニアであれば十分理解しやすく、またわかりやすい専門書です。
幅広く浅くという本ではなく、重要だと思われる箇所を絞って選択して深く書かれています。
少し高いですけども、いい本だと思います。概要がわかるので、持ち歩いていたくらいです。
2021年1月に出版されたばかりの本ですので、最新技術と自動運転の概要について知ることができます。
自動運転については日々、技術革新がある分野ですので、2021年出版という点についても価値があります。
この記事は2、3分で読めますので、もしよろしければ目を通していただければと思います。
目次を最後に載せておりますのでご参照ください。
書評「自動運転 モビリティイノベーションシリーズ⑤ 二宮芳樹【最新技術を要点絞ってより深く】
編集者 二宮芳樹
編者 武田一哉
出版 コロナ社
2021年1月25日 初版第1刷発行
自動運転二つのシナリオ オーナーカー型とサービスカー型
自動運転の進化のシナリオは、大きく二つに分かれている。一つは、自動車業界を中心に進めてきたオーナーカーのシナリオであり、現在、自律型アプローチで製品化された運転支援の延長線上で実現された高速道路のレベルの2の発展シナリオである。(中略)
自動運転進化のもう一つのシナリオは、IT系企業が中心に動いてきたサービスカー、すなわちタクシーやバスなどの自動化シナリオである。
出典 自動運転 P.11
基本的に専門書なのですが、前半の概要の章に書かれている部分のご紹介です。
自動運転と言えば、ニュースでみない日はないくらい、さまざまなサービスや実験、また市販車への技術搭載などについて発表がされています。
自動運転というと、WaymoやUberなど海外のIT企業等を思い浮かべることが多いかもしれません。
また、市販車ではテスラですね。
国内だと、日産のプロパイロット2.0などは広告の効果などもあるために有名かもしれません。
なんとなくニュースを聞いているだけだと、Waymoや日産も自動運転というところでは同じように感じますが、実は出発点がそもそも異なります。
従来の自動車メーカーも、IT系企業の自動運転の目指すところは、完全自動運転のレベル5というところは同じです。
進化の仕方が違います。
海外は自動運転が進んでいて、日本のメーカーは遅れている印象を受けますが、必ずしもそうとは限りません。
日本の自動車メーカーが進めている車はあくまで市販車です。そのため、事故も少しは起きるかも、というようなギリギリの技術を狙うのではなく、確実性の高い部分を実装していきます。
また、市販車とすると、走行する範囲は一般道はもちろんのこと、高速道路も日本全国にあります。走る範囲は限定されません。
ところが、WaymoやUberが進めるものを自動運転のタクシーやバスとすると、状況はかなり限定されます。
状況というのは走行する状況や範囲です。バスはあくまで決まったルートを繰り返し走り続けます。
タクシーも基本的には決まったエリアの短距離での使用を基本としたものです。
この本にも書かれているのですが、自動車メーカー等の進める、オーナーカー型は高速道路などの自動車専門道路からはじめて行き、市街地や一般の道路に広げていく形で進化し、サービスカー型はエリアを段々と広げながら、速度もあげていくという形で進化すると書かれています。
そのため、自動運転と一言でいっても2つの方向性があるということです。
運転にはアイコンタクトがある
アイコンタクトは、2人の人間間で意思疎通を図る非言語のコミュニケーションの一種である。自動車を運転するうえでのアイコンタクトは、おもに歩行者と運転者の間でたがいに目をあわせることである。アイコンタクトを通してたがいの意思を空いてに伝えることができるので、両者が意思決定を行ううえで重要であり、アイコンタクトを認識することは重要である。近年の研究では、実環境で歩行者が道路を横断する90%以上のシーンにおいて運転者と歩行者間で非言語的コミュニケーションがとられ、そのなかで最も多い歩行者の行動は、接近する車のほうを見る行動であったことが報告されている。
出典 自動運転 P.88
結構、こういうシーンは多いと思います。
横断歩道を渡るときなどでも、車が止まるのかどうか、という部分もドライバーがこちらを見ているかどうかなど確認するのと同じです。
横断歩道でも止まらない車のドライバーは歩行者の方を見ていません。
この本で述べられているのは、人がこっちを向いているかどうかなどを画像処理で判断しようというものです。
それにより、自車の認識をしているのか、していないのかという判断もできるようになります。
歩行者が自車の認識をしていない場合は、そのまま道路に出てくる可能性が高いなどもわかります。
事故が起こる前に、実際にはいくつかの兆候があるといえます。
交通事故が実際に起きるまでには、ただ、一つ「違反した」というだけで起きるわけではありません。
複数の「ミス」や「違反」等が重なることで「事故」になります。
例えばスピード違反をしたから事故に必ずなるわけではありません。
スピード違反をした車の前に、その車を見落とした人や車が飛び出てくることで大事故になります。
もっともスピード違反をしていない車の前に、その車を見落とした人や車が飛び出ても大事故になりえます。
ドライブレコーダーの普及が進み、より高精度に録画ができるようになることで、歩行者がその時にどうしていたのかなどもわかるようになります。
同時に車内の録画をしているドライブレコーダーもありますのでドライバーの状況もわかります。
それにより、事故が起きそうな状況なのかどうかも判断ができ、事故を未然に防ぐことができる可能性があります。
自動運転が完成しても残る問題
もしかすると複数の車両が連携して走行すれば、信号機も必要なく、交差点で数cmの間隔を開けて高速に、かつ安全にすれ違うなどといったことも近い将来実現できるようになるかもしれない。
しかし、その車に乗っている人はどうだろうか?従来から産業用ロボットなどの分野では「オートメーションサプライズ」と呼ばれる、「システムは自動で安全に稼働しているにもかかわらず、その状態を把握できない人間がその挙動に驚いてしまう」という問題が存在している。この問題は、自動運転においても起きることが十分予想される。高性能なセンサ情報をもとに、安全で効率的な運転が技術的に可能になったとしても、、結果として人間の能力の限界により、コンピュータの能力が制約され続けるということが起こるのではないかと予想される。
出典 自動運転 P.231
車間を詰めて走る人の助手席に乗ると怖いとか、カーブでの進入速度が速い人の運転は怖いとかというのと同じことです。
反射神経は人によって異なります。
システムが運転するようになると、そういった人の感覚はどうなるのかという部分があります。
システムは人の何百倍も反応ができるので車間を詰めて時速100kmで走っても安全だとわかっていても、人は自分が運転しているときのことと重ねてしまうことでそこに恐怖を覚えるというようなことです。
ただ、これも一時的な過渡期のものと考えられます。
車間が5cmで、時速100kmで怖いと感じるのは自分のペースのあるドライバーの場合です。
運転をしたことのない小学生が乗っていたら別に怖いとは思わないでしょう。
自動運転が当たり前の社会になった時には、運転技術は特別なものになっていくでしょう。
そして、運転免許自体が本当に車が好きという人だけが持つ、特別な資格の一つになることも考えられます。
水上バイクの免許を生活のために取る人はあまりいないです。
地方で運転免許を趣味でとっている人もあまりいないと思います。
地方での運転免許は生活に必要だからとっているだけです。
もちろん、一部の人は運転自体が好きだという人もいます。
そういう世の中が来た時には先に述べられていたような「オートメーションサプライズ」は減っていくでしょう。
専門的なところはのぞいて、面白い部分についてご紹介いたしました。
自動運転の概要を知るための専門書としても十分使えると思いますので、もしよろしければ目を通していただければと思います。
目次
1.自動運転概論
- 1.1 自動運転とは
- 1.2 自動運転の歴史
- 1.3 自動運転の現状
- 1.4 自動運転への期待
- 1.5 自動運転の課題
2.センサ
- 2.1 センサの役割と種類
- 2.2 RADAR
- 2.3 カメラ
- 2.4 LiDAR
3.認知:地図と位置姿勢推定
- 3.1 自動運転にとっての地図と位置とは
- 3.2 自動運転で活用される高精度地図の概要
- 3.3 点群ベースの照合技術
- 3.4 センサ融合
- 3.5 GNSSと慣性センサ
- 3.6 Mobile Mapping System(MMS)
4.認知:外界センサによる走行環境認識
- 4.1 環境理解とは
- 4.2 歩行者・車両の検出
- 4.3 歩行者属性認識
- 4.4 走行環境の詳細認識
- 4.5 センサフュージョン
5.判断・行動計画
- 5.1 運転行動計画の階層
- 5.2 判断・行動計画とリスク評価法
- 5.3 最適経路探索法
- 5.4 運転行動判断
- 5.5 走行軌跡生成
6.車両の制御
- 6.1 自律走行における走行目標実現のための車両制御
- 6.2 車両制御に用いられる座標系
- 6.3 目標軌道実現のための車両の簡易モデル
- 6.4 PID制御を用いた車両制御
- 6.5 車両のダイナミクスを考慮した軌跡追従制御
- 6.6 制御手法の違いによる経路追従誤差の評価
- 6.7 車両制御の今後
7.自動運転(レベル2とレベル3)のHuman Machine Interface(HMI)
- 7.1 ドライバの視認行動と知覚・認知リソース
- 7.2 システムの動作を示すHMIとモダリティの選択
- 7.3 レベル2におけるドライバの運転行動とHMI
- 7.4 レベル3におけるドライバの運転行動とHMI
- 7.5 システム利用時の安全性
- 7.6 まとめ
8.実装技術
- 8.1 オープンソースウエア Autoware
- 8.2 GPU・メニーコアへの実装
9.自動運転社会の法制度
- 9.1 自動車と法の関わり
- 9.2 自動車が備えるべき安全性
- 9.3 自動車に関する現行法規と自動運転の社会実装に伴う変容
10.自動運転技術と人との関わり方
- 10.1 自動運転技術とインタラクション
- 10.2 自動運転車両に乗る
- 10.3 自動運転車両を用いたサービスとその利用
- 10.4 自動運転におけるエンタティンメントの可能性
- 10.5 完全自動運転車におけるインタラクションの未来
11.自動運転で変わるモビリティ社会・産業構造
- 11.1 自動運転とモビリティ社会の前提となるVehicle IoT
- 11.2 なぜ、日本でのみ「車載」カーナビが普及したのか
- 11.3 さらなる地図の重要性
- 11.4 地図とVehicle IoTによる見えない世界への対応
- 11.5 半導体が車の安全性を高めた
- 11.6 「コネクテッド」でさらに安全性を高める
- 11.7 自動運転のもう一つの分類:Operational Design Domain
- 11.8 自動運転の開発方向性と市場方向性の二極化
- 11.9 モビリティ社会の変貌:MaaSへの発達
- 11.10 サービスカーで変わる産業構造
索引