要素技術

V2V,V2P,V2I通信とスマートシグナル

自動車が走るスマホと言われるいるように、これからの自動車はますます、通信機能が発展していきます。

いくら自動運転で車単体がかしこくなったとしても、見えないところは見えないわけですので、ただの「優良ドライバー」にしかなれません。路面状況をはじめ、他の車がどのように動いているのか、他の人がどこに向かっているのかなどの情報を受け取ることで、車同士で制御しあったりすることで事故を避けることもできるようになります。

そのためには、車の通信が発展する必要があります。

通信といっても、スマホのように携帯の基地局につながるということももちろんありますし、GPSやラジオ、VICSといった渋滞情報なども通信ではありますが、車が受信機として働いているだけですのでここでは述べません。
あくまで、送受信を行う通信についてご説明いたします。

車との通信に関しては次のように言われます。

Vehicle-to-X→V2X となります。そのXの部分に何を入れるかで意味することが変わります。
ここでは、以下の4つの通信についてお話しいたします。

車車間通信……V2V(Vehicle to Vehicle)通信 車と車の通信

歩車間通信……V2P(Vehicle to pedestrian)通信 車と人の通信

路車間通信……V2I(Vehicle to roadside Infrastructure)通信 車と道路インフラとの通信

路車間通信を、Vehicle to Roadside unitとしてV2Rと表記されていることもあります。本来、V2Iはスマートフォンなどの通信機器との通信を指すもので、V2Rが道路のインフラとの通信を指します。ただ、近年はV2Iとしてまとめて取り扱うことが多いようですのでそれに合わせています。

車車間通信 V2V(Vehicle to Vehicle)

車車間通信の場合、車同士で同じ通信プロトコル(通信のルール)を用いている必要があります。
当然ですが、日本語と英語で会話はできないのと同じです。
そうすると海外メーカー含めて規格を統一しなければなりません。

規格は統一できても、国によって使える周波数帯が異なります。
そのあたりの調整は難しいのかもしれません。

使用する周波数帯

車車間通信(V2V)、路車間通信(V2I)においては、DSRC(Dedicated Short-Range Communication:専用狭域通信)にて行われます。

北米 5.850〜5.925GHz(ASTM規格 E2213-02)

欧州 5.795〜5.815GHz(CEN規格 EN12253/12795)

日本 5.770〜5.850GHz(ARIB標準T55)

で割り当てられています。1チャネルの帯域幅は10MHzで、送信レートは27Mbpsです。
身近なところでは、路車間通信の一つであるETCに使われています。

2019年1月のソフトバンクの実験では、5Gの技術を使って4.5GHz帯での車車間通信を行なっていますので、さまざまな形での車車間通信が行われていくことことも考えられます。

引用 ソフトバンクプレスリリース

通信の種類

車車間通信は車同士の通信となるため、携帯電話の基地局などのインフラを使用しません。
そういった通信方法を、アドホックネットワークといいます。
もともと、軍事技術として開発されたものです。

戦闘中においては、通信する基地局などを立てられない時もあります。
そのような時に各自の持っている端末が基地局を介さずに通信を行うことで、ある端末が他の1台の端末とだけとしかつながっていない端末も他の端末と通信を行うというようなこともできるようになります。(間の端末をルーターとして使用する、マルチホップ方式。壇ノ浦の戦いで義経が八つの船を次々に飛び移った感じですね。)

特に車の場合はVANET(Vehicular Ad-hoc Network:車車間アドホックネットワーク)と呼びます。
似た用語としては、MANET(Mobile Ad-hoc Network)があります。これは、モバイル端末同士でアドホックネットワークを行うものです。

VANETとしては以下のパターンが考えられます。

1.ユニキャスト/マルチキャスト/ブロードキャスト/ジオキャスト

1-1 ユニキャスト(特定の1台の車両が宛先)
1-2 マルチキャスト(特定の複数台の車両が宛先)
1-3 ブロードキャスト(不特定多数の車両が宛先)
1-4 ジオキャスト(特定エリアの車両が宛先)

2.シングルホップ伝送/マルチホップ伝送

2-1 シングルホップ伝送(中継せずに周辺車両に直接伝える)
2-2 マルチホップ伝送(複数の車両を中継して遠隔の車両にまで伝える)

これらの1と2は組み合わせて使われます。

2-1 シングルホップについて

シングルホップブロードキャストの場合は、1台の車両から、複数の周辺車両全てにデータを送ることになります。
ただし、その全車両へ送信できているかどうかの保証はありません。
シングルホップユニキャストの場合は、1台の車両からIPアドレスで指定された特定の車両にデータを送りますので、シングルホップブロードキャストよりも信頼性が上がることになります。

2-2 マルチホップについて

複数台の車両を中継して通信を行うことができますので、ある車両同士が自車から見えないところにあるような、直接の電波で通信できないところにある車両においても、お互いの位置情報や速度や状態などを把握することができるようになります。

マルチホップブロードキャストの場合は、ある車両からのデータをそれぞれの車両が受信し、再び一斉にデータを送る形になります。伝達経路を制御しないでよいために、実装もしやすい技術です。

この方式には「隠れ端末問題」と言われる問題があります。お互いを認識できていない複数の車両から送られたデータを、ある車両がデータを受信したときにデータを正しく受信できない問題です。

車の場合は、位置情報を持っているために、その情報をで区別することで問題を回避することが検討されています。

実用化例

日本でも、トヨタのITS Connectという名前で車車間、路車間通信などを行うサービスを提供しています。
2015年秋にクラウンに採用されています。

このトヨタのITS Connectに対応した車同士においてのみ、車車間通信ができるようになっています。

使っている周波数帯は760MHzですので、わりとこの電波は回りこむ(回折)こともできます。
下の例は、先行車両に合わせて車の速度を調節するというものです。
この例以外にも、見えない交差点などにおいても出会い頭注意喚起ということも対応車同士の場合のときに警告が出ます。

出典 トヨタITS Connect

歩車間通信 V2P(Vehicle to pedestrian)

現時点(2021/4)では、実験レベルにとどまっています。

車車間通信同様に、お互いの位置が正確に3次元で時間とともに位置情報が把握することができていれば、ゲームでいえば当たり判定、交通においては事故を検出することができます。3次元の座標においてある時刻に座標が重なることが交通事故になります。

その座標が重なることが想定される何秒か前に車側や歩行者側に警告を行うことで事故を回避する可能性を高めます。

また、位置の精度とその情報更新頻度をどこまで高めることができるかが鍵になります。
通常のGPSであれば、精度は数m、更新頻度も0.1秒程度しかありません。
衛星の場合は、受信端末と人工衛星の距離の問題がある以上、更新頻度をある一定以上上げることができません。
そうした場合は、道路側のインフラ、例えば、信号機にwifiを付けるなどすることで正確な位置を高頻度で更新することができるようになります。

歩行者の持つスマートフォンなどを使うことができることが、新たな端末を持たずにすみますが、そもそも、そういう用途を想定して作られているわけではありません。

そこで、専用端末としてパナソニックなどでは、ランドセルに装置を組み込んだ実験などを行っています。
そういった専用の装置を使った場合は、アンテナを大きくすることで、それだけ感度(利得)を高めることができます。

スマートフォンなどの場合は、持ち方も人によって異なり、カバンに入れてしまうことなどが考えられます。
それにより、電波が届かないということも起こります。

しかし、ランドセルであれば、背負い方も決まっており、アンテナの指向性もわかりますので、それらを考慮した設計を行うことができます。

下の例などのようにアンテナ高が高ければ、それだけ電波の送受信が有利に行うことができます。
電波は反射、回折もしますが、通信にとっての理想はお互いのアンテナが直接見える位置にある状態です。
下の実験では700MHz帯を使用しています。

この実験でも、リュック型の方はアンテナをダイバーシティ方式にしています。(ダイバーシティ:複数のアンテナを用意して、その中の感度の良い方を選ぶ方式)
そういった方法を使うことで、歩行者の向きによらず送受信が行えるようになります。

出典 総務省 歩車間通信技術の開発

この他にも、沖電気工業ではネックストラップアンテナを使うなど、さまざまな形で歩行者側の端末が検討されています。

路車間通信 V2I(Vehicle to roadside Infrastructure)

道路インフラとの通信というといくつかパターンがあります。
最初に通信相手になりえるのが、信号機です。

信号機の用途としては次のような形が考えられます。

1.信号機の切り替わるタイミングを車に伝えることで、赤信号で停止することを回避する/速度情報などから交通量に応じた信号機の制御を行う

2.信号機が車や人を認識し、その情報を周辺の車に伝える

このような信号機は賢い信号機ということで、スマートシグナルと呼べそうです。
ここではそのような用語を使って説明していきます。

1.信号機の切り替わるタイミングを車に伝えることで、赤信号で停止することを回避する/速度情報などから交通量に応じた信号機の制御を行う

街を走っていても感じることがありますが、ある一定の速度で走ると、ちょうど信号機がすべて青になる道路があります。
制限速度より早すぎると赤でつかまり、制限速度くらいでゆっくり走るとちょうど複数の信号を青で抜けられるものです。

このような形でスピードの出しやすい道路などで、わざと信号機で車を止めたり、一定の速度で走らせる道路もあります。

これは、信号機が情報を発信するのではなく、ドライバーがその道路の信号機のくせを知って、タイミングよく走っているだけです。

本当は、車は止まらずに進む方が、CO2やエネルギーの面においてもいいです。エコドライブと呼ばれます。

その適切な速度を車に伝えることで、なるべく赤信号で止まらないようにすると移動時間も短縮されることが予想されます。

お互い信号機同士が協調できるようになることで、交通量に応じた信号のタイミング、全体の流れを止めないためのAIを用いた信号制御を行えるようになることで赤信号で停止することがあまり起きないようにすることが想定されます。

2.信号機が車や人を認識し、その情報を周辺の車や人に伝える

交差点は、死の交差点と昔から言われるように事故の多いポイントです。

その交差点に立っているのは信号機です。
その信号機はある意味、事故の全てを見ているとも言えます。

ところが、今までの信号機は「スマートシグナル」ではありませんので、見ていても何もできませんでした。せいぜい、事故が起きた時の状況を動画で保存するところで終わっていました。

これからの「スマートシグナル」には見えるものを見る「目」と、見えないものを見る「レーダー」、歩行者や車などからの信号を受け取る「通信機」それと、状況を判断する頭脳としての「AI」が搭載されていきます。

それにより、ドライバーが気づいていない歩行者の存在を知ることや、自転車や二輪車といった見落としがちの車両についても信号機が先に把握してそれを車に存在を伝えることで事故を削減することができます。

田んぼの真ん中にある交差点ならいざ知らず、街の中にある交差点は、死角(見えないところ)を多く持ちます。
仮に信号無視をしてきている車があったとしても、その情報を先に入手して衝突前に信号機が他の車に情報を伝えて回避するというようなことも考えられます。
自動運転が技術的に確立されても、それが普及するには時間がかかります。
そして、無謀な運転をする人は必ず存在しますし、機械は人に比べればミスは桁違いに少ないですが、なんらかの誤動作はありえます。

それらを踏まえ、フェイルセーフ(Fail Safe)と呼ばれる思想が求められます。ちなみにフェイルセーフというのはなんらかの機器や人などによる誤動作、誤操作があったときにも少なくとも事故は起こさないようにするという考え方です。似た言葉でフォールトトレランス(Fault Tolerance)がありますが、こちらは誤動作をしないように何十にも予防策を取るというものです。

実用化例

V2Vのところにも書きましたが、トヨタのITS Connectが既に実用化されている例になります。
一部の交差点ではありますが、東京、名古屋などに設置されています。
人や車の認識を行い、それを対応した車に情報として伝えています。

出典 ITS Connect

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